日本とマレーシアの居住者判定と租税条約との関係を理解する
国際税務を考えるうえで一番はじめに問題になるのが「居住者」の判定です。日本とマレーシアに注目した場合、どのように判断されるのかということについてまとめました。
ラブアン法人を作ってこちらに移住する人、MM2Hで移住する人、現地採用を狙う人。いずれの場合でもどこの国の税務上の居住者となるのかは気になるところかと思います。
現地採用を狙う人であれば、最高税率の28%が適用されないようにするためにも、働き始めた年からマレーシアの税務上の居住者となっておきたいところかと思います。
ラブアン法人を作ってこちらに移住する人、MM2Hで移住する人は、マレーシアでの所得税は誤差みたいな金額だと思うので、如何にして日本の税務上の居住者にならないかが重要であるかと思います。
マレーシアの居住者になっていれば、日本の居住者にならないのか?などいまいち分かりづらいところが多いかと思いますので、原則論をまとめておきたいと思います。
結論:日本とマレーシアの各税法で「それぞれ」居住者を判定し、双方で居住者となる場合には両者の当局で協議・決定
基本的な判定方法は、国際税務における原則の通りです。各国内法で居住者にあたるかを判断し、その結果が租税条約でどのように修正されるのかを確認するという流れです。
マレーシアでは、年間(暦年:1月1日〜12月31日)で182日以上滞在すれば自動的に居住者と認定されます。
これに対し、日本は「生活の本拠」(住所)が日本にあるかどうかという基準で判断します。単純な日数だけではなく、生活実態や家族の所在地、収入の源泉国など、総合的な判断がされます。
そのため、マレーシアに182日、日本に183日居住し、しかも家は日本にあり、家族も日本にいるというような場合には、マレーシア、日本とも居住者と判断されるおそれがあります。マレーシアと日本の租税条約では下記のように規定されています。
1 この協定において、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、
(a) 「マレイシアの居住者」とは、マレイシアの租税に関し、賦課年度に係る基準年度中、
(ⅰ) マレイシアにおいて通常の居住者である個人又は
(ⅱ) 個人以外の者でマレイシアにおいて居住者であるものをいう。
(b) 「日本国の居住者」とは、個人又は個人以外の者で日本国の租税に関し日本国において居住者であるものをいう。
(c) 「一方の締約国の居住者」及び「他方の締約国の居住者」とは、文脈により、日本国の居住者又はマレイシアの居住者をいう。
2 __1の規定によつて双方の締約国の居住者となる個人又は個人以外の者については、権限のある当局は、合意により、この協定の適用上これらの者が居住者であるとみなされる締約国を決定する__。
3条2項に従い、両国の税務当局が協議により決定することになります。
悩ましいのは、事前に居住者の判定を税務当局に依頼できるわけではないため、基本的には後で問題になるという点です。
一方の居住者と認定されるためにすべきこと
マレーシア、日本、それぞれの場合について考えてみましょう。
参考: No.2012 居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)
参考: 「183 日海外にいれば日本の非居住者になる」は本当か ~間違いやすい税務論点~
日本の居住者と認定されたい場合
マレーシアに年間182日以上の滞在をしないようにしましょう。また、前後の年がマレーシアの居住者となっているような場合には182日未満でも居住者認定される場合があるので、注意が必要です。
日本側では、まず住民票を入れましょう。
そして、日本には、183日以上滞在するようにしましょう。年間の半分以上の滞在は重要な客観的要素です。タックスアンサーや裁判例でもこれは重要視されていることが見て取れます。
また、「住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等」もタックスアンサーで例示されている内容であるため、これらを日本に集中させれば日本の居住者と認定される可能性が高くなります。
マレーシアの居住者と認定されたい場合
マレーシアに年間182日以上滞在をするようにしましょう。これでマレーシア側は問題ありません。
日本側では、まず住民票を抜きましょう。本論とはずれますが、これだけで基本的に翌年以降の住民税はかかりません。
そして、日本側の居住者認定を排斥するために、可能な限り日本に滞在しないようにしましょう。滞在日数の最小化は重要です。
そして、「住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等」を可能な限りマレーシアに寄せましょう。国籍は難しいと思いますが、家族とともにマレーシアに移住し、日本に居住用の家は持たない(持ち家であれば貸し出す)、日本の役職から外れる、お金はマレーシアに送金するなどが考えられます。このあたりは可能性を高めるための行為であるため、何個やれば良いというものではありません。そのため、本気度によってどの程度やるかを判断すると良いかと思います。
相続等は別議論
上記の居住者認定は主として所得税のための議論です。相続や事業譲渡類似の株式の譲渡などの場合には別の判断が入りますので注意してください。
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