「富裕層のバレない脱税」でラブアン法人に言及されていて驚いた。国税OBの感覚だと「ラブアン法人はクサい」ようです

Kindleのセールでみかけた新書。『『富裕層のバレない脱税「タックスヘイブン」から「脱税支援業者」まで』』というタイトルの過剰感が否めない本が安かったので買って読んでみました。ラブアン法人についても言及されていたのでちょっと紹介したいと思います。

読了までの目安約5分

元々本や漫画が好きで、今は Kindle で本をよく買っています。ちょうど9月の月替わりセールで「『富裕層のバレない脱税:「タックスヘイブン」から「脱税支援業者」まで』」 という本が44%オフの499円と安くなっていたので、ちょっと興味を惹かれて買ってみました。

思っていたよりも内容はしっかりしていて、数時間もあればするっと読める内容です。金塊の密輸などの仕組みは完全に脱税(というか消費税を詐取しているので脱税を超えるレベル)ではあるものの、正直仕組みとしては感心しました。

ただ、タックスヘイブンを脱税とミスリードする気満々の帯とかは、本を売るためとはいえ、さすがに俗っぽすぎる感が否めません。見出しには「法の抜け穴を悪用する輩」という表現も見られ、タックスヘイブンを利用している Apple や Google などの国際的な企業にも同じことを言えるのだろうか、という気がしてしまいます。「利用」を「悪用」とまで決めつけた表現はさすがに感情論としか思えません。

本の概要

著者は国税(国税局資料調査課)の出身で現在は税理士をしている人ですが、内容的には古典的な手口から比較的最新のスキームまで、脱税や租税回避のスキームが紹介されていました。もちろん、紹介されているということは税務署も当然認識しているような内容なので、「脱税としては」使えるようなものではありません。

ただ、本のタイトルにもある通り、海外等をフル活用したスキームは、情報の秘匿性が高いゆえに、納税者が意図的に申告しない(=脱税)ことが多いということが度々指摘されています。それこそが「バレない脱税」と表現されている内容ですね。ただ、逆に言えば、きちんと申告すれば脱税にはならないにもかかわらず、基本的には「こんなスキームを使うのは大体悪いやつ」みたいな論調でした。新書だと淡々と真面目に書くと売れないのかもしれません。

しかしながら、少なくともここに載っているようなスキームは危険だよ、というのが丁寧にわかるようになっているので、「これならバレないのでは?」と考えているひとへの未然の警告にもなっており、そういう意味では優しさも見られるように思います。

いずれにしても、国際税務に興味があれば一読してみると面白いかもしれません。水商売など現金商売での売り上げ隠し(売上除外)とタックスヘイブンなどの租税回避が、あたかもヤクザとインテリヤクザのような比較で進んでいく点は微妙ですが、全体的にはとても面白い読み物です。

ラブアン法人への言及

軽い読み物のつもりで読んでいたのでラブアン法人の項があって素直に驚きました。国税のOBの感覚だと「ラブアン法人はクサい」という感覚のようです。なにが「クサい」のか。少し長いですが引用します。

「ラブアン法人はクサい」

日本居住者(…)がラブアン法人の株主の場合、一定の条件下で日本の「タックスヘイブン税制(…)」の適用を受けることになる。__租税回避のスキームには注意が必要だ。日本で課税されては意味がない__。もちろんノミニー制度を利用すればいいというものではない。
当局の税務調査の勘所として、…10年以上前は「外注先など取引先で香港法人が出てくると怪しい」などのポイントがあった。__近い将来「ラブアン法人はクサい」といわれる日が来るのかもしれない。日本からの支払先としてラブアン法人が登場した場合、どう見ても「不自然な取引」となる。移住や事業実体を持たせるなど本気で取り組まないと、簡単に追徴されてしまう__だろう。

ラブアン法人に限りませんが、香港やシンガポールなどを含め、法人税率が20%未満になると、タックス・ヘイブン対策税制が適用されます。要はペーパーカンパニーを作って利益だけ移転しようとしても、所有者たる株主の所得とみなして課税しますよ、というルールです。

ただ、ペーパーカンパニーではなく事業実体があり、株主も日本の非居住者であれば、タックスヘイブン対策税制は適用されません。本にも書かれているとおり、「移住や事業実体をもたせる」ことをちゃんと行えば簡単には追徴されないということです。

しかしながら、「不自然な取引」と見られてしまうのは本当にビジネスを行なっている側としてはデメリットになるのは否めないように思います。取引先(=ラブアン法人に業務の対価を支払う企業)が痛くもない腹を探られるということが暗に示されているようにも思います。

そういう意味ではきちんと租税回避のスキームを組んだとしても、日本国内側で理解してもらうのは難しいのも事実なのではないかと思います。そのため、ITであればアプリの配信や情報の販売等、主として個人を相手にするようなビジネスの方が「不自然な取引」が生じる問題は回避しやすそうです。ただ、この場合も「電気通信利用役務の提供」となる場合には消費税の問題が出て来やすいので、日本との課税関係から完全に解放されるわけではないですね。

いずれにしてもある意味ラブアン法人について「新たな発見」がなかったことは何よりです。気づきもしなかったデメリットが出てくるのが一番怖かったので。